誕生日なんて別に特別なものじゃない。

もう16年もこの年に一回のイベントを繰り返しているけど、はしゃいで楽しみにしてるなんてそんなのはとうの昔にしなくなった。
昔はさ、そりゃ両親からもらえるプレゼントにワクワクして、その日だけ豪華な夕飯に腹膨らませて、毎日誕生日ならいいのになんて思った事もあったけど、そんな気持ちいつまで抱いていたか俺もう思い出せねえもん。

そんな誕生日。

別に日常と変わらないはずだった誕生日。

なのにさ、今年はなんかその昔みたいなワクワク感でいっぱいだった。


「あ、べ・・・君。あの、明々後日、ヒ・・・ヒマ?・・・。」


三日前、三橋にそんな事を言われたせいだ。




きっとそれは、特別な。



「阿部〜はぴば〜!!」

朝練が休みだったから、ホームルームギリギリに教室に入った。したら目の前に水谷が走り寄ってきて、俺の手にポンとチロルチョコを置いてきた。なんだコレと訝しげな目線を送ると

「ふみきクンからの誕プレね。お返しヨロシク!」

そう言って肩をバンバン叩かれた。・・・何がお返しだ。お前どうせこれ昨日の帰りゲーセンで取ったヤツだろ。つーか、何でもかんでも略すその言い方も気に食わねぇんだよ。
俺の中でそういうモヤモヤしたもんが渦巻いたけど、何も誕生日の日にまで怒りたくはない。喉まで出掛かっていた水谷に対する不満をぐっと腹に押し戻して、サンキュとだけ言って席に着いた。

「嬉しい?」
「嬉しくねえよ。」

後ろからの水谷のヘラヘラした声がまた俺をイラつかせたけど、でも、そんなのどうだっていい。今日は許してやる。誕生日だから。こんなもんよりもっと良いもの、今日は貰えそうだから。



その日俺は、ちょっとおかしかった。

花井達に言わせると、いつもの不機嫌オーラが0で、むしろなんかバックに小さな花が飛んでたらしい。俺は普通にしてたつもりだったんだけど、やっぱりバレてた?俺が柄にもなく浮かれてんの。
だって仕方ない。あの三橋が、いつも言いたいことはっきり言わない三橋が、俺のこと誘ったんだぜ?お前ら信じられるか?
三橋といわゆる”そういう関係”になってから初めてのイベント事だ。浮かれないわけがない。しかも部活もない今日は、学校が終われば、結構な時間三橋といられる。何度もそうやって思っては、にやけない様に隠すのに必死になった。

放課後、掃除を早々に済ませた俺は、駐輪場に猛ダッシュ。三日前、ここで待ち合わせしようと約束をした。ドコの乙女だよってくらい浮かれて行くと

いた。

三橋が立っていた。

「三橋。」

俺が声をかけると、一瞬ビクッとしてから安心した顔で

「阿部君!」

て答えた。
寒い中待たせた事を詫びると、自分も今来たところだと笑って返された。

「で、どこ行くの?」

三日前にヒマ?と聞かれて暇。と答えると、三橋は「じゃあ付き合って」と言った。その時は何に付き合うのか聞いていなくて、まあその分色々妄想して勝手に楽しみにしていたんだけど。

「お、俺ん家!」

三橋はそう言うと自転車に跨った。
うわ、マジで?誕生日を恋人の家で?それってかなり嬉しい。

「お袋さんには言ってあんの?」
「きょ、うは、お母さん、遅いんだ。・・・カラ、だいじょぶ。」

ストライクだ。
つまり今は誰も居ない。
誰も居ない家に恋人を呼ぶって、お前、三橋のクセに・・・。
俺は綻びそうになる口元を左手で隠して、チャリの鍵を外した。


チャリに乗ってる間、俺は色々一人で考えをめぐらせていた。
なんだこの展開は。まさか、家についたら、「俺がプレゼントだよ!」的なそんな展開なのか?
いやいや、幾らなんでもそんな痛い女みたいなことを。

相変わらず三橋は自分からは何も話さない。俺は一人で妄想中。したがって二人の帰宅時間は終始静かだった。


家に着くと、カバンを貸してと言われて、俺はそのまま三橋にカバンを託した。すると三橋は二人分の荷物を持ってドアを開けて、玄関先にそれをポイポイと投げ置いた。そして置いてあったグローブを二つ持ってきて、片方を俺に渡した。

「え、何、三橋。」
「キャッチボール、しよ。」

え、なんでこの寒い中、しかも誕生日の日にキャッチボール。俺の疑問を他所に、三橋は嬉しそうだ。
その笑顔に、俺はもしかしてとんでもない勘違いをしていたんじゃないかと思い始める。

「あ、のさ。今日、俺に付き合ってって・・・。」
「部活、休みだから、でも俺投げたくて。でも、阿部君いないとこで投げると、あ、阿部君、怒る、カラ。」


俺の中の熱が一気に引いていった気がした。

思い出してみる。確か三日前のあの日、練習前の全集でモモカンが「明々後日志賀先生が出張でいらっしゃらなくて、私も一日バイトなの。だから皆、その日は家でゆっくり休んでちょうだい」とかなんとか言っていた。
俺は今になって気付いた。きっと三橋はそれを聞いて、三日後、つまり今日、部活がないならせめてキャッチボールでもしてボールに触っていたいとそう思ったんだ。
俺が勝手に投げるなと以前言った事を覚えていて、だから俺に「付き合って」と言ったんだ。

そういえば、俺別に今日が俺の誕生日だってコイツに言ってねぇじゃん。
なんかこういう関係なら言わなくても分かってるような錯覚に陥ってたけど、そんな三橋は器用じゃない。
俺、何勝手に・・・。

そう思ったら今までのことが虚しくなって恥ずかしくなって、俺は大きく溜息をついた。


バカみてぇ。
一人で勝手に浮かれて。

「あ、阿部君?どうしたん、だ?」

でも、

「キャッチ、ボール・・・だめ、だった?」

俺の言う事守って、ちゃんと俺の事誘ったんだよな。その謙虚さには答えてやりたいなんて思う。

「いいよ。やろう。」

誕生日なんて、もともと特別なモンじゃなかったんだ。それなのに、経緯はどうであれ、一応こうやって好きな奴と過せてるんだから、やっぱり充分今日は特別な日だ。

今日は、その鈍感なトコ、許してやるよ。

お前の、その楽しそうな顔見られただけで、それを誕生日プレゼントとしてもらっておこう。

「これでラストな。」
「うん!」

どれくらいやっていただろうか。帰って来た時はマフラーを首に巻いて、寒い寒いと体を縮こませていたのに今はもう、二人ともワイシャツをまくっている。
いつの間にか温まった体に冷たい風が気持ちいいくらいだった。

ラスト一球を投げ終えて、それでも三橋はまだ物足りなさそうな顔をしていたけど、今日はゆっくり休めとの監督の言葉もあったし、そこそこにして終わらせた。
そしてそのまま、三橋の誘いで家で軽く飲み物を貰うことになった。結局家に上がれたのだから結果オーライってやつか?とも思ったけど、でも大好きな投球を終えて満面の笑みの三橋にすっかり毒気を抜かれて、まぁ今日は大人しく健全な高校野球時になっておこうと思う。

「お、またせ。」

氷を入れた緑茶をお盆にのせて三橋がやってくる。
トン、と目の前に置かれたお茶に手を伸ばそうとした時、俺は目を丸くした。
お茶の横に、いびつな形の白い塊が置いてある。
え、これって・・・

「ケーキ・・・?」

なんで?
明らかに手作りだというように傾いて、イチゴの乗ったケーキ。ウエハースにはヨロヨロな文字で『おめでとう あべくん」と書かれている。
横に突っ立ったままの三橋を見ると、顔を真っ赤にして俯いている。

「みは――」
「た、誕生日、お、おめ、でとう!」

俺の言葉を遮って、力一杯三橋からの祝福の言葉。

「お前が作ったの?コレ。」
「あ、う、・・・うん。お母さん、に、教えて貰って。で、でも、あんま上手く、で、出来なくて。」

確かに三橋の不器用さが良く見える出来栄えだけど、でも、すげー頑張って作ったんだろうなとか、きっと誕生日といったらケーキだとか思ったんだろうなとか、それから、ちゃんと俺の誕生日覚えてくれてたんだなとかそういうのがなんか俺の中で色々渦巻いた。

キャッチボールしたいとか言って俺をちょっと凹ましといて、コレは・・・

ってアレ?

いや、でももしかして、今日俺をキャッチボールにわざわざ誘ったのも

「キャッチボールしたいって、まさか・・・。」

そこでまた三橋の顔がカーッと赤くなった。

ヤベェ。鈍感なのは三橋じゃない。俺の方だったんだ。三橋の方がずっと何枚も上手だ。

「あ、あの、あべく・・・う、ご、ごめっ――」

思い切り、三橋を抱きしめた。

「なんで謝んの?つか、何してんの。」

どんだけ俺をドキドキさせんの。

「あ、う?」
「やべぇ、メチャクチャ嬉しい。」

好き。好きだ。なんでこんな、お前ってすげぇの?俺をこんなに喜ばせるなんて、お前すげぇよ。

「け、ケーキ、俺っ切る。いっ、一緒に、食べよ!」

俺の肩を軽く押し返して、そういう三橋。

「ああ。でも、その前に。」
「な、何?」
「キス、させて。」
「・・・うん。」

少し離れた体の代わりに、唇を重ねた。
触れた瞬間にピクッと体を小さく震わせて、それを受け入れる三橋。このまま押し倒しちまいたいけど、でも

「よし、食うか。」
「うっうん!」

今日は特別。折角お前tが用意してくれた気持ちが目の前にあるから、まずはこっちからいただこう。


「な、ケーキ食ったら、次は――」

包丁を取りに行った三橋の後ろ姿にかけた言葉。

それに三橋は一瞬驚いた顔したけど、照れた顔して笑って頷いた。



うん、こんな誕生日なら、毎年心待ちにしようかな。
















甘口目指して書きました。
阿部氏の誕生日一日過ぎてからのアップですが。。。阿部!誕生日おめでとう。