*死ネタです。微エロ有り。 なんとなく分かっていた。最近町が騒がしかった。幕府を無き物にしようとする強行改革派と天人が手を組み、あちこちで反乱を起こし、人々は浮き足立っていた。 そしてこの町が殊更騒がしかったのは、幕府があり、真選組があったから。奴等にとっては恰好の攻撃地だ。いつ戦が始まるとも分からない・・・そんな状況だった。しかし、どうやら奴等は幕府と繋がりのある場所を片っ端から潰していき、幕府が降参してくるのを待っていたようだった。現にニュースで地方のあちこちでドンパチと小規模の打ち上げ花火がいくつも上がっていることを報道していた。 そして幕府側が圧倒的に不利な状況だった。 各地から真選組へ応援要請が来ていることも知っていた。小数を残して、何部隊かが戦場へ向かうことになった。 噂は耳にしていた。 だからなんとなく分かっていた。 お前が来た時から。 お前が笑って会いに来た時から。 だから、 お願い。 何も言わないでくれ。 その口を開かないで。 俺はきっと、笑えなくなっちまう。馬鹿みたいに泣くに決まってる。 「蝦夷に、行く事になった。」 瞬間。目の前が真っ暗になった。 雨が降る日、君に別れを告げる 時刻は・・・もうすぐ昼になろうとしている午前。土方は手土産にあんまんとにくまんを持って万屋へやってきた。神楽は喜んでそれをほおばり、新八は土方に茶を出すと向こうにいますと言って、肉まんを抱え込む神楽を引っ張り部屋の奥に消えた。 何か悟って、席を外してくれたのかもしれない。 有り難い話だが、正直今日はそれが辛かった。なんとなく、嫌な予感がしていたから。 いつもの様にタバコに火をつけ、口に咥えて白い煙を吐き出す。 ああ、そのまま、何も言うな。 いつもならどちらからともなくくだらない会話を始めるはずなのに、何も言わないまま気まずい空気だけが2人の間を流れていた。けど、それでよかった。口を開けば聞きたくない言葉が土方の口から発せられてしまう気がしたから。 俺は新八が淹れてくれた茶に手を伸ばした。 その時 「蝦夷に、行く事になった。」 聞きたくなかった言葉を、土方は案外あっさりと言いのけた。 「えぞ?何それ。えーっゾワゾワしちゃうわの略?」 「ここよりずっと北の地だ。」 「オイ、つっこめよ。」 「何が欲しい?食いたいものでも良いぞ?」 「え?」 「なんでも買ってやる。何がいい?」 ねぇ、そういうのやめてくんない?なんかそれって、置き土産って言うかさ。 「今すぐに決めらんねぇよ。ちょっと2,3日考えさせろ。」 「駄目だ!」 土方があまりにも大きな声を出すもんだから思わず驚いて目を丸くしてしまった。茶が零れそうになる。 「今日じゃなきゃ駄目なんだよ。」 「や、だってお前いきなり来て、んなこと言われても。」 「明日、発つ。」 ・・・え・・・? 「明日の船で向かうことになった。いつ帰ってこられるかわからねぇ。いや、恐らくもう・・・。」 目の前が真っ暗になった次は頭が真っ白だよ。スゲェよお前。こんだけの時間の中で俺をこんなに混乱させるなんて。 「まぁ、アレだ。とりあえず欲しいもん言え。これから付き合ってやるからよ。」 笑いながらそんな事を言う土方に俺はついていけない。ただ、頭を垂れて、目の前の茶を見る事しかできなかった。なんでそんな優しいこと言うんだよ。いつもならもっと俺を馬鹿にしたような態度で、不機嫌そうな顔して、でも時々笑って、・・・結局最後はいつも優しいんだけど。でもおかしいじゃねぇか。今日はずっとじゃねぇか。 まるで、一生分のお前の優しさを俺に差し出すように。 「・・・らない。」 「あ?」 「いらねぇよ。」 「お前が遠慮するとか有り得ねぇことすんなよ。いつもはもっとずうずうしいくせに。」 「お前こそいつもはもっと瞳孔開いてるくせに。今日垂れ目になってんぞ。」 「んだと!」 眉間にしわを寄せる。ああ、いつもの土方だ。 いつもの。俺の隣にいた。 土方十四郎だ。 「オイ・・・銀時・・・?」 知らないうちに涙が頬を伝っていた。拭ったってどうせ止まらないって分かってたから、もうそのまま垂れ流すことにした。涙と共に、言葉が、口から零れていく。 「今はいらない。でも、多分何日か後に欲しくなるから、帰ってきたら買えよっ・・・テメェ。」 嗚咽が混じって、上手く言葉が出ない。 「今日じゃ、回りきれねぇから帰ってっ・・きたらなァ・・・国中のパフェ、奢れコノヤロー。」 口は勝手に動き言葉を紡ぎだして行く。もう、止めることが出来なかった。 「それから、帰ってきたらタバコやめろ。後、帰ってきたら―――」 言い終わる前に、土方が俺の体を抱きしめた。 行カナイデ 「悪い。」 「っう・・・っく、ひっく・・・。」 情けないなぁオイ。もう、言葉が出ねぇよ。喉がジリジリと痛い。言葉を発しようとすると喉の蓋が閉まって、声にならない。ただ漏れるのは声とも言いがたいもの。 「泣くな。頼むから。」 お前それはないだろ。自分勝手にも程がある。誰のせいで泣いてると思ってんだよ。 俺を置いていくなんていい度胸してんじゃねーか。 「本当に、何もいらないのか?」 俺の髪を梳きながら、俺の好きな、優しい声でそう言う。 俺はその声が発せられる唇を、自分のそれで塞いだ。 「欲しい。・・・お前が欲しい。土方。」 「銀時・・・。」 「お前の愛を全部くれ。それだけでいいから。」 「・・・分かった。」 土方は優しくキスをして、微笑んだ。滅多に見られない。土方の微笑み攻撃。もう、なんか、悲しいのか嬉しいのか分からなくなってきた。 それから俺達は町へ出て回った。二人でよく歩いた道、入った店、まるでその一つ一つを土方の目に焼き付けるように。 歩いていると、俺の手を土方が握った。いつもは2人とも絶対恥ずかしがってそんなことはしない。それにホラ、今みたく、周りにジロジロ見られるから。やっぱりこっ恥ずかしくて俺の少し前を歩く土方の顔を見ると、耳が少し赤いのが分かった。 そのまま振り返るなよ。俺、今きっと物凄く泣きそうな顔してるから。 夕方になって、万屋で俺の作った飯を新八達と食って。あ、今日は俺が食事当番だったから。その後、新八と神楽は志村家に泊まると言って出て行った。新八も神楽も俺が教えなくても空気の読み方は上手くなったよな。お母さん鼻が高いわ。 ここからは、大人の時間。 土方と2人でくだらないバラエティ番組を見て、なんとなく目が合ったと思ったらどちらからともなくキスをした。そうしたら、夜という時間もムードを煽って、もう、止まらなかった。 何度も何度もキスをして、俺の腰が立たなくなると土方は俺を抱き上げて寝室へ向かった。 そっと布団の上に降ろされて、またキスをされた。 繋いで。 何もかも。 2人の間に距離がなくなるように。 深く深く、心も、体も、お前で一杯にしてくれ。 「あっ・・・土方ぁ・・・。」 「銀時っ・・・。」 行カナイデ 「もっと、っ・・・もっとシて・・・っおねが・・ぁっ!!」 行カナイデ 「土方ぁっひじ・・かたっ・・・!!」 お願い。 俺を置いて 「行くな・・よっ・・・。行くなよぉっ・・・!」 「ぎん・・・。」 言わないって決めていたのに、もう何もかもが溢れ出してしまった。こんな事言っても、土方が辛くなるだけなのに。分かってるのに、だめなんだ。この手を、体を、離したくない。心も体も、ここに置いて行ってよ。 俺を抱きしめる腕に力が込められた。そして息が出来ない程のキスをする。 「銀時・・・愛してる。」 何度も何度も体を繋いで、いつもなら意識を手放してしまうのに、今日は必死にそれに耐えて行為が終わった後の、あの柔らかな抱擁に顔を埋めた。 そして話した。 今までの事を思い出して、二度と忘れないように胸に刻むように。 そして 「愛してる。」 互いに数え切れないほど言い合った。 そうしている内に俺は眠気に勝てなくて、温かい腕の中で眠りに落ちた。最後に感じたのは額に触れたアイツの唇。 外の光が部屋に差し込む頃、俺は目を覚ました。隣に彼はもういない。 ぼんやり襖のほうに目をやると、隊服に身を包んで、スカーフを調えている土方の姿があった。 「おぅ、起きたのか。珍しいこともあるもんだ。」 タバコに火をつけ、頭をかく。 「・・・。」 「まだ寝てろ。早ぇから。」 だから、その優しい顔やめろ。アレ?前がかすんでよく見えねえよ。夢じゃなかったんだな。昨日のアレは。その襖から出たら、もうお前に会えないんだな。 俺には、引き止める術がないんだな。 「銀時。」 布団で隠した顔の上から、土方の声がする。 「俺の頼み、一つだけ聞いてくれるか?」 ダメだ。聞きたくない。聞いたら、お前、行っちまうんだろ? 「お前の笑顔が見たい。笑って見送ってくれないか?」 ああ、声が震えている。自信に満ちたお前からは想像できない声。 でも、俺はそれどころじゃない。何もかもが震えて、ちょっと人様にお見せできない。 「・・・ははっ。なんてな。」 短く笑うと土方は襖に手をかけた。襖の開く音。俺は布団を方の位置まで下げて、出来るだけいつもの様にけだるい感じで。 「行ってらっしゃい土方。」 必死に作った笑顔はきっと引きつっていただろう。言葉もきっと鮮明ではなかっただろう。けれどもお前はそれを見てまた優しく笑うんだ。そして最後の言葉を。 「じゃーな。銀時。」 溢れ出る涙を止める術を誰か教えてくれ。 この肌のぬくもりが消えないようにするにはどうしたらいい? 俺の体に、脳に、全身にアイツがいる。もう、独りになんてなれっこない。 静かに閉められる襖に、俺と土方は遠く遠く隔たれた。 それから約一年が経った。 「じゃーちょっくら仕事してくるわー。」 「今日はちゃんと報酬貰ってきてくださいよ?」 「わーってるって。」 以前となんら変わりない朝の風景。新八に見送られて俺は久々の依頼の仕事に出かけようとしていた。ドアに手をかけようとした時、外に人影が見えた。また新しい依頼人だろうか?珍しいこともあるもんだ。そう思って戸を引いた。引いたと同時に、さっきまで青色だった空から大粒の雨が落っこちてきた。 オイオイ、結野アナ、今日は降水確率0%つってなかったっけか? その瞬間になんとなく分かってしまった。 ああ、アイツが・・・。 空を見上げてから、戸の前に立つ人物に目をやった。 背格好からして若そうな男だ。まだ童だろうか。俯いたまま黙って俺の前に立っていた。 「仕事依頼ですか?」 俺が尋ねるとようやくその顔を上げて、俺を見た。 「あの、坂田・・・銀時さんですか?」 「そーですけど。」 「あの、俺、市村鉄之助って言います。」 「はぁ。」 その少年は頭を下げると、そのまま肩を震わせた。 「俺、副長の・・・土方十四郎さんの、小姓でした。」 そういえば前に一度だけちょろっと聞いた事があった。雑用係りが出来たと。きっとコイツのことだろう。 「これを。」 少年は木箱を差し出した。 開ケルナ 俺の本能がそう言った。 「土方さんが、銀時さんにに渡せと。」 木箱を支える手が震えている。見ていられなくて俺はその箱を手にした。 手にとってしまったらもう、開けたいという好奇心には勝てなかった。 開ケルナ もう一人の俺がそう言ったのに、俺は開けてしまった。 入っていたのは髪の毛と手紙。 「土方さんが、函館で・・・っ。形見だと言って自分に託しましたっ・・・。」 これは、開けてしまった事に対する罰だ。 「髪・・・随分伸びたんだな。」 俺がポツリとそう言うと、少年は泣きながらそれに答えた。 「この髪には、貴方との思い出が詰まっているから、っ切らないんだって・・・っ。いつも、優しく笑って、貴方の事をっ・・・。」 なんだよ。髪長いなんてちょっと見たかったじゃねぇか。 土方。 雨が降っていて良かった。きっとこの頬に伝う滴は、雨だ。溢れ出て止まらないのは、雨だ。 「それじゃあ、俺はこれで失礼します。」 少年は頭を下げると、背を向けた。 「ちょっと待て。少年。」 俺はそれを呼び止めて傘を投げる。少年の手にすっぽりと傘は収まった。 「持っていけ。つってももうびしょ濡れだけど。ないよりましだろ。」 少年は涙か雨か分からないほど濡れた顔で必死に笑顔を作って 「あの方が、何故貴方を愛したか分かる気がします。」 もう一度一礼をすると、万屋の階段を下りていった。 戸の前に残された俺は、手紙を開いた。雨に少し濡れて文字が滲んでいる。これ以上濡れないようにと軒下まで体を入れて、それを読む。 土方の字だった。 愛しくて、愛しくてたまらない、土方の字だった。 書いてあるのはたった一言。 『愛してる』 それだけ。 それだけだった。 帰ってきたら・・・ 俺だって言いたかったのに。 もう、お前は言わせてくれないんだな。 「土方。」 なぁ?聞こえる?雨に逆らって、この声は空まで届く? 「愛してる。」 届け。届け。 「愛してる。」 届け・・・っ。 「ひじっ・・・かた・・・っ、あい・・・。」 俺はそのままそこに膝を突いた。 新八と神楽が様子がおかしいと駈け寄ってくる。 逝ってしまった。 俺の大切な人。 お前はずるい。 こんなにもお前を好きにさせておいて。 「バカヤロー。」 もう二度と会えない。 「サヨナラ。」 雨の降る日に、僕は君に別れを告げた。 fin. *上手く書けなかったけどぉ!!死ネタです。函館で死んだ史実の土方を絡ませました。・・・市村は司馬遼太郎のを意識して。。。書いてしまった・・・。もっと悲恋になるはずだったのにぬるい。 |