朝日と見るは愛し君 アレ。枕が硬い。しかも細い。俺枕変えたっけか? ボーっとまだ靄がかかったような頭で、いつもと違う目覚めの感覚を確認する。 つーか、なんかこの枕温かくね? 色々と違和感を感じながら重たい瞼をゆっくりと開けると今まで俺がしていたように目を閉じて寝息をたてている男が目に入った。 隣で寝息を立てているのは俺の恋人だ。・・・ってなんか自分で恋人とか言うと気持ち悪いな。 途端に自分の顔が紅潮したのが分かった。 状況を理解した。天井も布団も自分の家とは違う。 そうだった・・・。 昨日の夜のことを思い出す。 俺はパチンコで大勝した長谷川さんの奢りで飲み歩いてて、えっと・・・確か、三軒目だったかな。三軒目の居酒屋で一人で飲んでた土方と鉢合わせたんだ。酔っ払った長谷川さんが土方に絡んで泣き出して、なんかそれ見て面白くなくて日本酒を馬鹿みたいに飲んで、それで気持ち悪くなって。 ・・・アレ? そうだった・・・。じゃねぇよ。その後の記憶がねぇよ。 気持ち悪くなって、そんで、あ!そうだ。立てなくなった俺を土方が担いで。 それで。 それで・・・。 ん? 布団をめくる。 ・・・なんか肌色が多い。つーか着物が枕元に散乱してるぞ。 これは、明らかに。 「ん・・・。」 俺がぐるぐると考えていると、隣で寝ている土方が小さく声を発した。けれど起きる様子はなかった。なんだよ。そんな爆睡するくらいヤったのか?・・・だめだ。記憶がない。土方曰く酔っている時の俺は相当エロいらしい。・・・俺、昨夜何やったんだろう・・・。 それにしても酷いクマだ。 これは俺とのアレでどうこうじゃなくて、慢性のもののようだ。大体、朝になるといつも俺より先に起きてその日の支度をしているというのに、今何時だ?部屋にかけてある時計を見上げると朝六時を指している。俺にとっては早い時間でも、コイツは大体この時間にはもう起きて活動している。 起こした方がいいのか? そうも思ったが、なんだかこれ程までぐっすりと寝ている人間を起こすのは気が引ける。おまけに自分を抱いたままのこの状態も少し惜しい。 ・・・こいつあったけぇな・・・。 耳を胸に寄せるとトクトクと心臓の音が聞こえる。ああ、俺の好きな音だ。自分を抱くと、少し早くなるこの音。俺がこの音の速さをコントロールしてる。そんな可笑しな満足感に俺は勝手に浸っていた。 しかし、なんだか変な気配を感じる。 気配の方をチラッと見ると、障子の隙間から瞳孔が開いた一つの目がこっちを見ていた。 思わず叫びそうになるのを抑えて、一度目を逸らす。しかし、よく考えればあれは見た事のある目だ。茶色い、いつもは瞳孔が開いてんのか閉じてんのかよく分からねぇ目をしているヤツ。 「・・・沖田君?」 その目の持ち主はまるで俺を誘うようにススーっとその障子を閉めた。 俺は土方を起こさないように布団からゆっくりと抜け出し、枕元に置いてあった着物を羽織ると障子を開けた。庭ある池に太陽が反射している。朝だと実感させられる光景だった。 俺が出てきた廊下に沖田が座っている。 「お早うごぜェます。旦那。」 下から見上げるように沖田は挨拶してきた。 「おお。沖田君早起きだねぇ。お前も俺と同じで遅起き派だと思ってたのに。」 「そうなんですけど、誰かサンの声がうるさくてあんまり眠れなくてねェ。」 ニヤっとした笑いを俺に向けてくる。・・・えっそれって・・・。 「旦那ァそんなに良かったですかィ?」 「お前聞いてたのか!?」 「旦那の声がデカイんでさァ。」 やっやめてくれ!っつーか何?そんなに聞こえるほどでかい声出してたのか?俺。何やってんの昨日の俺! 慌てる俺を見て沖田はもう十分反応を楽しんだというような笑みをこぼした。 「嘘ですよ。聞いてませんって。」 「な、なんだ。脅かすなよ。」 「声だいぶ抑えてたみたいですねィ。あんまり布団噛まない方がいいですゼィ。」 「聞いてんじゃねぇかよぉぉぉ!!」 穴があったら入りたい。ああ、もう屯所じゃできねーよ!!チクショー!土方のヤロー。防音設備しとけよ! 「しかし珍しいや。」 「何が。」 「こんだけ騒いでもまだ寝てるみたいでさァ。」 そういえば。障子一枚のみ隔てたこの場所でエクスクラメーションマーク連発の会話をしても、障子の向こうの男は起きなかった。 よっぽど疲れてんだろうな・・・。 「ったく、しょうがねェヤローだ。」 障子を少し開けて中の人間を覗いていた俺の横で、ため息交じりの沖田の声が聞こえた。 「土方さん、ここ最近ずっと仕事詰めで寝てなかったんでさァ。」 話を聞くと、部下の隊士がミスを犯して、その尻拭いを土方が自ら買って出たらしい。この数日ヤツが寝ている姿をを見た者は居ないという。アイツらしいといえばアイツらしい。自分よりも仲間を優先する。甘ぇっちゃぁ甘ぇけど、不器用の中に見える、アイツの優しさだ。 俺の、惚れたところだ。 「今日も本当は出勤だったんですけど・・・。」 沖田はそこで立ち上がった。 「ま、たまたま俺が早く起きたんで代わってやりまさァ。」 「え。」 「旦那、チャイナ達には俺が上手く言っとくんで、その甘っちょろいヤローの面倒みといて下さいね。」 「・・・たまたま、ねぇ?」 「昨晩のオカズのお礼でさァ。」 「オイィィィィィ!綺麗な顔してそんな事言っちゃいけません!」 沖田は笑いながら手を振って土方の部屋から離れていった。 たまたま?お前がたまたまで起きる玉かよ。あ、別にギャグじゃねーよ。って誰も聞いてないか。 障子を静かに開けて再び部屋の中に戻ると、タバコと畳の匂いが混じったコイツの部屋特有の匂いが香った。嫌いじゃない。この匂い。 布団の傍に座って、寝息を立てている男を見下ろす。 綺麗な顔だ。 こんなヤツが俺を好きだと言うから笑える。 「土方。」 なんとなく名前を呼んでみた。 「土方。」 この名前が好きだ。 「・・・十四郎。」 この名前を持つこの男が好きだ。 この腕が。 この 「ん・・・。銀時・・・?」 声が。 「悪ぃ。起こしちまったか。」 「・・・今、何時だ・・・。」 「六時過ぎ。」 「ヤベ・・・寝すぎたか・・・。」 土方が布団に肘をついて身体を起こそうとうつぶせになったその背中を思いっきり銀さんの肘で突きまた布団に沈める。 「ぶっ!!おまっなにす・・・っ。」 「お前今日非番だってよ。沖田が代わるって。」 「は?」 「そーんなクマしてるヤツが公務を行なったら国民の皆さんビビッて逃げんぞ。」 自分の状態がどうかその一瞬で判断したらしく、土方はそのまま突っ伏して身体から力を抜いた。 「アイツに心配されるなんざ、俺も堕ちたな・・・。」 文句を言いながらも、まんざらでもないような様子だ。折角の相手の好意に甘んじるらしい。すると土方がチョイチョイと手招く。俺がなんだ?と首を傾げると口の端を少し吊り上げて笑顔を作り 「こっちに来いよ。」 と掛け布団を持ち上げた。それは、先程まで俺が寝ていた場所だ。 まるで催眠術にでもかかったかのように、俺はそのスペースへもぞもぞと身を滑りこませる。 すると、ぎゅっと抱きしめられた。 「あったけぇ・・・。」 それ、俺もさっき言った。 「また寝んの?」 「ん。」 既に目を閉じているその男は俺の髪を綺麗な、だけど骨張った指でサラサラと梳く。その感覚が気持ちよくて、俺もまた瞼が閉じそうになる。そもそも六時なんて俺はいつもなら爆睡している時間だ。起きていられる方がおかしい。しかも情事の後なんて余計だ。 「俺が腕枕してやろうか。」 「バァカ。それじゃあ抱きしめられねぇだろーが。テメェは抱き枕になっとけ。」 なんだそりゃ。 ・・・ま、嫌いじゃないけど。 「なぁ。」 「んー?」 「今日は仕事休むのか?」 「いや、あいつに任せたら碌なことにならねぇ。午後から出る。」 「そっか。・・・じゃあ、午前中は一緒に居られるんだな。」 俺はそう言って土方の胸に頬をすり寄せた。 とたん、閉じていた目が開いて俺を見た。 なんだよ。そんなに変な事言ったか? 「・・・可愛い・・・。」 「そーよ。銀さんはいつも可愛いんだよ。」 手をヤツの頬に当てて、重ねるだけのキスをしてやった。 そしてまた俺は土方の胸に顔を埋めた。 「オヤスミ。十四郎。」 土方は片手でぐっと俺の身体を引寄せ、片手はやはり俺の髪をすきながら、俺にしか聞こえない声で囁いた。 「ああ、おやすみ。」 その声は低く俺の心臓に響いた。 耳を寄せたヤツの胸から聞こえる心臓の音は俺のソレと同じリズムを刻む。 朝日が障子を照らし、部屋はぼやけた白い光で少し明るい。 けれど もう少し寝かせてくれ。 愛する、コイツの腕の中で。 *色々下品ですみません。諸々の朝ってことで。ただイチャつかせたかった。それだけです。 |