大切なヒト


『銀時・・・。』
『なんっ・・・だよ・・・ぁっ!!』

グイっと片足を持ち上げられ、最奥まで突かれる。締まりのない口はさっきから快感を貪る甲高い声を出している。

『銀時。』
『だからっ・・・んぁっ。なんだって・・・!』

高杉が俺の名前を呼ぶ。

『お前、俺の事好きか?』
『は?っ・・・。』
『どうなんだよ。なぁ?』

そう言うと高杉は一度入り口まで引き戻したソレをまた奥へ入れる。脳天に響く快感が俺からまただらしない声が漏れる。

『んあっ!!あぁっ。なっなんだよっ・・・。』
『言えよ・・・っ。』
『なっ・・・。』
『言えよ!!』

高杉は歯を食いしばるような表情をして何度も俺を突く。それは快感を我慢している顔じゃない。もっと、もっと悲痛な。その顔は俺の胸を締め付ける。
俺は手を伸ばして高杉にキスをせがむ。それを察して高杉は噛み付くように俺にキスをした。

『あぁっ!はっ・・・んっ・・・たか・・・すぎっ・・・すっ好きぃ!ぁっ好き・・・んっ。』
『チッ。』
『高杉・・・っ。あぁっ!』

舌打ちをすると高杉は一層その腰の動きを早める。

『銀時!銀時っ。』

俺の名前を叫ぶように呼ぶ。
高杉の汗と、目から流れる液体が俺の顔に降りかかる。

『ひぁっ!!やっ・・・バァカ・・・何、泣いて・・っんだ・・・。ココにいんだろっ。』



俺もアイツも、互いの身体が欲しかっただけだ。

生きてるって思いたかった。

抱き合える相手が欲しかった。


だから、二人の間に愛だの恋だのなかった事はアイツだって分かってた。

俺の愛の言葉は嘘だと気付いていた。
同属嫌悪?同属愛?

それでも、言って欲しいと願うお前の悲痛な声も俺には届いていた。
お前の心ん中にある気持ち、汚れた自分に対する嫌悪も俺は知っていた。

だから、離れられなかった。愛なんていらねぇ。ただ、コイツの傍にいなきゃいけねぇ。そう思ったんだ。


ココに、いるだろ。お前の傍にいるだろ。

だから、んな顔するな。傷ついた顔するな。



抱きしめたくなる。


抱かれているのは、俺の方なのに。





『高杉・・・。』










「ん・・・。」

目を開けると、月明かりが障子の隙間から差し込む。
布団の重み。
ウチの布団より多分良い物だ。フワッとしてる。
布団から出ている肩が少し冷えてそれを少し上に引き上げる。
横に視線を向けると仰向けでタバコを吸っている黒髪の男が見える。片腕は俺の頭の下に。もう片方は口に咥えていたタバコを指に挟み口から離す。眠気はまだあるが目を擦ってその男の身体にすり寄る。

「寒くねぇの?土方。」
「・・・起きたのか。」
「ん。」

相変わらずタバコを吸っているその男の厚みのある胸に頭を乗せる。腕枕より、俺はこっちの方が好きだ。

「煙いよ。」
「悪ぃな。」
「なぁ、腰痛い。」
「悪かったな。」
「朝、送ってくれる?」
「断る。」
「んだよ。テメェのせいで動けねぇかもしんねーんだぞ。」
「だったらここで寝てろ。」

あれ?なんかおかしくないかコイツ。なんか、不機嫌っていうか・・・。

「なぁ、ひじか―――」

名前を呼び終わる前に土方の大きな手が俺の頬に触れた。親指が頬骨辺りを撫ぜる。その感覚で分かる。俺の頬に恐らくついさっきまで伝っていたのだろう。

「嫌な夢でも見たか?」

その声と指使いで土方の優しさが伝わる。まただ。胸が心地いい切なさに締め付けられる。けれどふと頭に

『銀時。』

別の男の声が聞こえてきた。
夢・・・。俺の見ていた夢は・・・。

「いや・・・。」

先刻まで見ていた夢を思い出した。と言ってもはっきりと思い出せた訳ではないけど。ただ、懐かしい。消せない過去だった。忘れたいわけじゃない。けど、きっとアイツも俺も、もう振り返ることのない過去だ。

「好きなヤツの夢でも見たのか?」

え・・・?

「名前、呼んでたぞ。」

名前・・・って・・・まさか。

「胸クソ悪ぃ名前なんか呼びやがって。」

最悪だ。


だってそうだろ?抱いていたヤツが別の男の名前を呟いたんだ。しかもそいつの夢を見ながら。泣きながら。有り得ないだろ。こんなこと。


嫌われる。


「い、いや土方、それはっ。」
「泣くほど惚れてるヤツがいんのに、俺とこんなことしてていいのかよ。」

違う。言いたいのに声が出ない。

「遊びも大概にしねぇと嫌われちまうぞ。」

違う。喉までなんだか苦い物がこみ上げてきて、それが蓋をして声が出ない。代わりに目に別の物が溢れる。俺が嫌われたくないのは、惚れてんのは、

「ひじ―――」

土方の唇が俺のと軽く触れる。
ヤツの顔を見ると笑い返された。

「なんてな。」

その言葉とほぼ同時にヤツの下になるように組みしだかれた。いつの間にタバコ消したんだよ。

「お前が俺が初めてじゃねぇ事くらい知ってたし。」
「え・・・。」

上から被さる様に俺を抱きしめられる。ヤベェ、なんだコレ。

「ったく、テメェは俺のモンだろーが。他の男の名前なんか呼んでんじゃねーよ。」

また優しいキスが振ってくる。一瞬でもその優しいコイツを傷つけたことに胸が軋んだ。ああ、もうだめだ。目から水が出てくるよ。何だよコレ。止めらんねぇよ。

「ひじ・・・かた・・・。」
「夢ん中の男より、俺の方がいいだろ?」

余裕の言葉の中に、少しの不安が見える。なんで、俺にそんなに優しいんだよテメェは。いつもみたく怒鳴ればいいじゃねぇか。
なんで何も聞かねぇんだよ。どんな夢だとか、アイツはどうだったとか。

「・・・いい。」

でも、知ってるんだ。俺がへこめばへこむほどコイツは優しくなる。
涙を拭うように顔にキスをされる。先程までタバコを持っていた手は俺の手を握って。
こいつは、優しすぎて、優しすぎて、汚れた俺には勿体無い男だ。

「土方の方が、いい。」

唇に与えられる柔らかな感触はあの頃は味わえなかった物だ。ただ貪るだけでなく、全てを絡めとるような舌も土方が教えてくれた。

「シテ・・・?」

愛しい。

止まらない。

こいつといると胸にこみ上げる愛しさに歯止めが利かない。

「抱いて。もう一回。・・・何度も。」

過去は消えない。だけど、お前との今を、未来を俺の中に刻んでくれ。








ごめんな。高杉。
互いの弱さだけを弄くっても、前に進めないって気付いちまったんだ。

それは愛じゃなく同情だって気付いちまったんだ。



俺は、今、心から愛したヤツがいる。

テメェの全部で俺を大切にしてくれるこの男に、俺は全力で応えてやりてーんだ。


「っあ・・・ひじかたぁっ・・・!」

「銀時。」

お前と同じように、俺の名前を呼ぶ。けど違うんだ。何か違うんだ。

「やっ・・・だめっ・・・んあぁっ。」
「だめ?イイの間違いだろ。」

名前だけで脳みそ溶けそうなんだ。突き上げられる度、俺の身体がコイツを離すまいとするんだ。

「はっ、あぁ・・・っ。イイっ・・・気持ちいぃっ。」
「っ・・・あ?ココか?」
「あっソコっ!もっと、もっとぉっ・・・!」

突かれて、掻き乱されて、ぐちゃぐちゃになって、それでも求めてしまう。傷を舐め合うための行為じゃない。愛なんて言葉で説明できない感情の上にある行為だ。

「ひじ、かた・・・っ。」
「っんだよ・・・。」

二人の荒い息が月明かりの下に響く。

「好き・・・っ。好き。」
「知ってる。」
「あぁっ!んっ好き、好き。土方ぁ!」

気持ちが零れる。想いが心に収まらなくて口から溢れる。

「ぁっ・・もっと、奥っ・・・奥まで来て・・っあ!!」
「エロっ・・・。その顔反則だろ。」

キスと共に深く深く互いを繋げる。息が出来ない。このまま、溶けてもいいかななんて、女みてぇな思考。なのになんでだ?ちっとも嫌じゃねぇんだよ。

「銀時、銀時っ。」
「ひじっかたぁっ・・・っ。あぁっ俺っ・・・もっ・・・イっちゃ・・・っ。」
「いいぜ・・っ・・・イケよ・・・!」

早くなる動きにもう何も考えられない。気持ちよすぎて飛びそう。
腰を抱えられ、最奥を突かれた。

「っあああぁぁっ!!!」

脳に電気が走ったその時、我慢しきれなくなった俺のモノから白濁の液体が吐き出されて土方の腹を汚した。そしてそれとほぼ同時に締め付けられた俺の中で、土方が己の精を吐き出したのを感じた。収まりきらないそれが、土方が引き抜くのと一緒に小さな音を立てて二人の繋がった部分から零れ落ちる。

「ぁ・・・っ・・・。」

ひくひくと痙攣する俺の身体を、土方はこれでもかというくらいの優しい抱擁で包んだ。

「また泣いてンのかテメェは・・・。」

あきれたような、だけど嬉しそうな声が頭の上からする。
顔は見えない。コイツの胸から顔を離せない。

「はぁ・・・気持ちよすぎて、出ちゃったんだよ。お前が悪い。」

そう言うと悪かったなと笑う声が聞こえた。

「土方。」
「あ?」
「・・・好きだぜ。」
「そうかよ。」
「好き。」
「なんだよ。わあったっつの。」

言わせてくれよ。

お前と会って、初めて分かった気持ちだから。


「俺もだ。銀時。・・・過去も、今もひっくるめてな。」


ああ、罪作りな男だなお前。銀さんそういうのに弱いんだから。

自分の不安より、俺を包もうとするその優しい言葉。


もう二度と履き違えない。


この気持ちは。


お前だけのもんだ。


過去は消せない。消さない。だけど、振り返らない。


高杉。お前も、そうだろ?





「もう立てないから。だから朝送ってくれよな。」
「仕方ねぇな。」



俺の一番大切なヒト。


次に目が覚めた時も、お前の顔がそこにありますように。


願いを込めてそっと唇を重ねた。











*高杉元彼論!!結局何がしたかったのかよく分からなくなってしまいました。高杉また書こう。