不謹慎かもしれない。

けど、俺を心配そうに見つめるお前の顔も実は結構好きだった。

痛々しくて、俺のために顔を歪ませるお前をもっと見ていたかった。

けど、やっぱりこんなのは間違ってる。

幸せそうに笑うお前の顔に勝る物なんてないはずなんだ。

歪んでしまったのは、きっと俺の方。





雪蛍



土方は仕事が終わると、あの日もまた病室にやってきて病名はなんだと尋ねた。着替えを持ってくるため一度万事屋に帰った新八と神楽がいないおかげで

「あぁ、なんか昼間はしゃぎ過ぎただけらしいぜ〜。銀さんも歳かね。」

そう笑ってごまかすことが出来た。土方は腑に落ちない顔をしていたが、元気そうな銀時の姿を見て、とりあえず大丈夫そうなことを確認すると安心したようだった。

「そんで、いつ退院なんだよ。」
「明日。」
「明日!?」
「疲労で倒れただけだからあんま入院されると迷惑だって医者から言われてよ。つーかそんな金もないしな。」

実のところ、詳しい検査もあり、そう遠くない将来に視力が失われる可能性が高いことから入院を勧められたが、銀時はそれを拒否して必ず定期的に通院することを条件に退院することにした。入院したら軽いものだなんて言い訳は誰も信じない。

特に、土方が相手では尚更だ。疑ったらそのまま誘導尋問にかけられてなし崩しになるに決まっている。

知られたくなかった。目が見えなくなるという事は下手をすれば土方の足枷になる。そんな人間を傍に置いておくだろうか。勿論土方の気持ちを信じていなかった訳ではない。自分に向けられる愛は無償のもので、こんなことで見放されるとも思えない。それでも、きっと距離ができる事は確かで。だから、まだ”もしかしたら”なんて奇跡を信じて、可能性が0になるまでは言わずにおこうと銀時は決めていた。

「どうした?銀時。まだどこかおかしいのか?」

いつの間にか土方の顔を見ながら呆けていた銀時はその声に我に返る。

「明日退院なら退院祝いに甘いモンでも買ってやる。何が欲しい?」

普段なら特別な日か銀時が奢れと言わない限りそんな事をしない土方。優しそうな笑顔とは違う土方特有のあのニヤリとした笑顔をむけられると、無意識に銀時はベッドに座りながら、横に立つ土方に抱きついていた。

「うおっな、なんだよ。」

もしも本当に視力が奪われるとなったらこの笑顔も見る事が出来なくなる。途端に怖くなった。

「キス。」
「え?」
「キスが欲しい。」

周りには誰も居ないのに、聞かれないような小さな声でそう言った。
土方の右手が銀時の顎に当てられ、くいっと上げると、やわらかい感触が重なった。銀時は腕を土方の背中に回してもっととせがむ様に自分に引寄せた。それにつられるように、傾いた土方の体は、銀時をベッドに押し倒すように倒れこんだ。

「・・・盛ってんのか?」

唇を離すと、互いに高揚しているのが表情と少し上がった息で分かる。土方の問いに銀時は噴出して

「やっだ多串君、勃っちゃった?」

からかうように、膝で土方の下半身を押し返す。硬いものがその膝に触れると、土方から舌打ちが聞こえた。

「てめっ。」
「帰ってからなー。べッド汚したら気まずいことこの上なしだし。あ、それと、俺デラックスパフェがいい。」
「あ?キスでいいんじゃねぇのかよ。」
「バッカ、キスは甘くねぇだろ。」
「充分甘ぇよ。」

互いの口は憎まれ口ばかり叩く。けど、その裏にある気持ちをちゃんと知っている。
銀時は土方の背中に回した手をまたぎゅっと締めた。

「なんでそんなにひっつくんだよ。」
「・・・寒ぃんだよ。窓閉めろ。」

いつの間にか空には月が昇っていて、銀時がふと見上げたそれは、縁がひどくぼやけていた。光のせいだ。そんな事は分かっている。それなのに、無性に怖くなった。

それを振り切るように銀時は土方の胸に顔を埋めた。




出来ることなら、もう何も見たくない。

お前の顔だけ見ていたいよ、土方。

怖い、怖いんだ


そんな事、言えるわけない。


お前に弱い俺なんて、見せたくない。





*甘々かつシリアス。長丁場ですみません。